ラルフ・ヘファーライン(Hefferline)とゲシュタルト療法について

Ralph Franklin Hefferline ゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法のバイブルとも呼ばれている『Gestalt Therapy: Excitement and Growth in the Human Personality』は、Fritz Perls、Ralf Hefferline、Paul Goodman三人の共著ですが、Perls、Goodmanと比べると、Hefferline(ヘファーライン? へファリン?)はあまり知られていません。

(邦訳がないこともあって、日本ではこの著作自体があまり読まれていないようです)

パールズとグッドマンが、どちらもカリスマ的な人物であったのに対して、へファーラインは地味というか、堅実な研究者だったという印象です。

Ralph Franklin Hefferline
Ralf Hefferline(1910-1974)

以下、ラルフ・へファーラインについての覚書。

Ralph Hefferline - Wikipedia

“ラルフ・フランクリン・ヘファーライン(Ralph Franklin Hefferline、1910年2月15日インディアナ州マンシー市 – 1974年3月16日)は、コロンビア大学の心理学教授である[1]。

ヘファーラインは1946年頃にフリッツ・パールズの患者となり[2]、1948年にニューヨークでパールズが率いる小さなトレーニンググループに参加し、ゲシュタルト療法を定義した本『ゲシュタルト療法、人間の人格における興奮と成長』(パールズ、ポール・グッドマン、ヘファーラインの共著、1951年刊行)に一章を寄稿するまでになった。彼は3人目の後輩で、実践的な演習を含むセクションを担当した。

その後、心理学の行動主義派に参加することになる。”

Hefferline Noteは1947年ですが、

His interest in Gestalt therapy arose after I more or less lost contact with him.

とスキナーが書いているとのことなので、それ以前からスキナーの行動分析学に触れていたようです。

Ralph Franklin Hefferline: The Gestalt Therapist among the Skinnerians or the Skinnerian among the Gestalt Therapists?

ラルフ・フランクリン・ヘファーライン スキナリアンの中のゲシュタルト療法家あるいはゲシュタルト療法家の中のスキナリアン?

Terry I. Knapp

Just a moment...

Ralph Franklin Hefferline, who was an operant psychologist, co-authored Gestalt Therapy with Frederick S. Perls and Paul Goodman. Hefferline’s contributions to the development of biofeedback and conditioning without awareness are reviewed, and the influence of B. F. Skinner’s analysis of private events on Gestalt Therapy is argued.

“オペラント心理学者であったラルフ・フランクリン・ヘファーラインは、フレデリック・S・パールズ、ポール・グッドマンとゲシュタルト療法を共著で発表した。ヘファーラインのバイオフィードバックや意識しない条件づけの開発への貢献が振り返られ、B・F・スキナーの私的事象の分析がゲシュタルト療法に与えた影響も論じられている。”

この論文にへファーラインのことが詳しく議論されているようですが、pdf取るのに50ドルくらいしたので未読。。

へファーラインの訃報について書いているNew York Timesの記事

Dr. Ralph Hefferline, 64, Dies; Taught Psychology at Columbia (Published 1974)
Hefferline, Ralph F (Prof)

には、

“Beginning in the nineteenfifties, Dr. Hefferline. performed experiments that achieved conditioned responses in humans without the intrusion of the subjects’ intellects. In one set of tests, the subjects’ thumb twitches, of which they were unaware, were made to stop certain noises.”

“1950年代、へファーライン博士は、被験者の思考を介入させることなく人間の条件反射を実現する実験を行ってきた。ある実験では、被験者は無意識のうちに親指を動かして、特定の音を止めるようになった”

とあります。

「無意識のうちに(気づきなく)」している動作が何かを表現している(あるいは何かの目的を持った行動である)という現象は、ゲシュタルト療法が注目することとよく似ていると思いま

す。

Terry Knapp: Ralph F. Hefferline. Der unbekannte Gestalttherapeut
Der Autor folgt den Spuren des unbekannten Gestalttherapeuten Ralph F. Hefferline zwischen Gestalttherapie und Behaviorismus.

というページでは、先の論文の著者であるTerry I. Knappが、パールズとへファーラインの出会について書いていました。

1940年代(後半?)ということなので、へファーラインが30代、パールズは50歳前後の頃だと思われます。

ふたりともソマティックなアプローチに関心がありました。パールズは、「神経症は不必要な回避だ」と主張していて、へファーラインはラットの回避に関する実験的な研究を行っていて、お互い関心が近かったみたいです。

”フリッツ・パールズが南アフリカからアメリカに移住したとき、フリッツとラルフの共通の知人が、二人は非常に似た考え方を持っていると言って、二人の出会いをアレンジしてくれました。ラルフは、パールズ博士の理論に非常に興味を持ち、1947年にパールズ博士と一緒に、自己認識を高めるためのテクニックを自分自身や、後にコロンビア大学の学生たちに試してみるようになりました”

“When Fritz Perls moved to the United States from South Africa, a mutual acquaintance of Fritz and Ralph said they had very similar views and arranged a meeting between the two. Ralph found the theories of Dr. Perls very interesting and with him in 1947 they began to try out the techniques for increasing self-awareness on themselves and later on students at Columbia University.”

“1951年、私はフリッツ・パールズとポール・グッドマンと一緒に『ゲシュタルト・セラピー』という本を作りました。ゲシュタルト療法:生きる喜びと人格の発達』という本です。私が書いたゲシュタルト療法は、「自己再生」というサブタイトルのついた、自分でできるマニュアルのようなものでした。特に、慢性的あるいは散発的な筋肉の緊張、痛み、苦しみ、それに伴う主観的な障害などの習慣に対する客観的なアプローチを求めていました。これらの習慣は、今ここで役に立つわけではないですが、過去の人生経験からくる身体的な刷り込みであり、そうでなければ罰せられるはずの行動の発現を、多かれ少なかれ効果的に抑制してきたと理解されました。確かに、その理論的、実践的背景は異なっており、部分的にしか解明されていなません。内的葛藤の一部は、随意筋の拮抗筋を同時に緊張させることにあるのですから、この緊張を物理的にどのようにもたらすかに注意を向け、それを実験し、一時的にでも増幅させればよいのであって、悪いことの緊張なしに何が起こるかという恐怖や不安が生じるかもしれないという事実に怯むことはないのです」(Hefferline and Bruno, 1971, p.166).

“In 1951 I worked with Fritz Perls and Paul Goodman on a book called ‘Gestalt Therapy: Joie de vivre and personality development’. The part of Gestalt Therapy that I wrote was a kind of do-it-yourself manual subtitled Self-Revival. It sought an objective approach to, among other things, our habits of chronic or sporadic muscle tension, pain, suffering and the associated subjective impairments. These habits were understood as bodily imprints that, while no longer useful here and now, stemmed from past life experiences where they had at one time more or less effectively suppressed the expression of behaviors that would otherwise have been punished. Admittedly, the theoretical and practical backgrounds for this were different and only partially cleared up. But the therapeutic way out, which anyone can take for themselves, was quite simply this: because part of inner conflict consists in tensing antagonists in the voluntary musculature at the same time, one simply has to draw attention to how one brings about this tensing physically, and one must experiment with it, even amplify it temporarily, while not being frightened by the fact that fears and apprehensions may arise about what might happen without the strain of bad things’ (Hefferline and Bruno, 1971, p. 166).

とへファーラインが述べているように、PHG(Gestalt Therapy: Excitement and Growth in the Human Personality)の実践的なパートは主に彼が書いたとのことです(理論編は、ポール・グッドマンが中心となりました)。

へファーラインが書いたパートでは、16個くらいのの「実験」が提唱されているのですが、最初の「実験」が「今ここ、で始まる文章を述べてください」という、とってもゲシュタルト的なものです。

続く実験も「注意と集中」「身体感覚を研ぎすます」「感情の連続性を体感する」「意識の統合」「融合Confluenceから接触Contactへ」といった、われわれに馴染み深いものでした(まだ見出ししか読んでないけど)。

ついでにこのページからへファーラインの言葉を引用しておきます。

「ゲシュタルト」という言葉がタイトルに入り、そのまま残っているのは、フリッツ・パールズが主張したからで、パールズは自分自身と出版社に、アメリカではゲシュタルト理論がまだ非常に人気があると確信していたからです。しかし、ウォルフガング・ケーラーとモリー・ハロワーが『ゲシュタルト・セラピー』の原稿を初めて手にしたとき、彼らはそれがゲシュタルト理論の正当な派生物であることを否定しました」(Hefferline and Bruno, 1971, p. 166)。

ポール・グッドマンは、誤解を解こうとして(理解を得ようとして)ケーラー(『類人猿の知恵試験』を書いたゲシュタルト心理学四天王、みたいな人です)に長い手紙を書いたそうです。

へファーラインは(たぶん半分かそれ以上、正統派の実験心理学者であったので)、「ゲシュタルト療法」という名前は誤解を招くから「統合療法」という名称の方がいいと考えていたみたいです。

>今の日本では、ゲシュタルト療法と行動療法は対極にあるという認識がありますが、へファーライン・メモは1947年、PHGは1951年、にそれぞれ発表され、その前後でへファーラインとスキナーそしてパールズの間でどんな議論があったのか、それぞれのアプローチはひょっとしたら大いに重なることが多いのではないか、など大変興味深いものがあります。

という点については、上記のサイトには次のように書かれていました。

“ゲシュタルト療法とスキナーの徹底行動主義との一般的な類似性については、他の人々も指摘している。Elaine KepnerとLois Brienは、「ゲシュタルト療法-行動主義的現象学」において、ゲシュタルト療法の行動主義的現象学的概念枠組みを構築し、その中で現象学的事象を事実上の行動として理解している(Kepner & Brien, 1970)。同様に、William D. Groman, WM Nelson III, and Kay M. Davidson (1988) は、「Self-control and Responsibility」の中でコメントしている。”ゲシュタルトと行動学の枠組みの相互作用 “でコメントしている。そして、”Gestalt therapy “の序章で。An introduction “では、ヴァーノンが、行動主義、特にスキナーのものと、フリッツ・パールズによる形態の心理療法との関係について、それヴァン・デライト(1980)らと議論している。”(独→英→日のGoogle翻訳です)

たぶん、スキナーの言語行動とかプライベートイベントに関する理論と関連が深いのではないか、ゲシュタルトが時制を「今」にすることとか、主語を「私」にすることって、まさに言語行動への介入ではないか、と推測しますが、あまり詳しくないので、このあたりはまた後日、勉強・検討できたらいいのかなと思います。

B.F.スキナー重要論文集Ⅲ 社会と文化の随伴性を設計する

B.F.スキナー重要論文集Ⅲ 社会と文化の随伴性を設計する B.F.スキナー著 スキナー著作刊行会編訳
20世紀を代表する心理学者スキナーの哲学・思想を理解するための一冊。あえて心的用語と距離を置くことで難解になっているスキナー論文を、現代の行動分析学研究者の視点から解きほぐし、その意義を解説する。ティーチング・マシンや育児のための「スキナー箱」、動物のトレーニング方法など、実験室と実社会を架橋する試み。

のあとがきには、

どこまでも“今ここ”にこだわったスキナーを知る[三田地真実]

という文章があるようです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました