心理アセスメント

『ロールシャッハ解釈の諸原則』(ワイナー)

ロールシャッハ解釈の諸原則
ひさしぶりにロールシャッハを取ったこともあり、ぱらぱらめくってみた。

ワイナーさんによれば、ロールシャッハは、あまり構造化されていないパーソナリティ査定の道具で、知覚-認知課題と空想への刺激で構成されている。

そして、ロールシャッハは、パーソナリティ構造とパーソナリティ力動のいずれをも査定する方法である。

パーソナリティ構造とは、状況によってあまり変化しないその人の特徴や適応傾向(いつでも依存的だとか、疑い深いなど)と、現在の施行や感情から成り立っている。

パーソナリティ力動とは、その人の基底にある欲求や葛藤、関心が、特定の状況における思考・感情・行動に与えている影響である。

ロールシャッハはたんに心理テストとして役立つだけでなく、パーソナリティ機能の多くの側面を明らかにしてくれる。だから、ワイナーさんは、「テスト」と呼ばず、「ロールシャッハ・インクブロット法(RIM)」と呼ぶことを推奨している。

RIMは被験者を課題解決状況に直面させるが、被験者はその状況に、日常の課題解決状況と同じように反応するので、パーソナリティ様式のさまざまな様相が明らかになり、そこからパーソナリティ機能について有益な情報が得られることになる。

RIMは被験者に連想状況を提供するが、被験者は、自身のパーソナリティに備わった特性を彼らが見たものに反映させるので、基底の欲求、態度、葛藤、関心の多くが明らかになり、そこからパーソナリティ機能について有益な情報が得られるのである。p.30

ここ何年か、心理アセスメントのオーダーといえば、「発達障害の鑑別のため」といったことが多くなり、ロールシャッハの依頼はずいぶん少なくなった。WAISばかりじゃなくて、ロールシャッハももう少し取りたい。

 

うつ病評価尺度MADRS

モントゴメリー‐アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale:MADRS)日本語版

うつ病の重症度を評価するための尺度。Hamiltonうつ病評価尺度は、身体的要因などの要因も含まれているが、このMADRSは、うつ病の中核的な精神症状を評価できるように作成された(抑うつ症状とanhedoniaの評価が中心)。

うつ病の重症度の変化に鋭敏なので、抗うつ薬の薬効の比較などをとらえるのに適しているとのこと。うつ病の診断のための尺度ではなく、うつ病と診断された患者さんの重症度の変化をアセスメントするために用いる。

MADRSは、Asbergらが1978年に航海した包括的精神病理学評価尺度(Comprehensive Psychopathological Rating Scale:CPRS)から抑うつを評価する10項目を抜き出して作成された。

MADRSを使いこなす

F3:うつ病 評価尺度(MADRSなど) (精神科臨床評価検査法マニュアル〔改訂版〕) — (精神科臨床評価–特定の精神障害に関連したもの) Rating scale for depression (especially MADRS)

ベンダー・ゲシュタルト・テスト

ベンダー・ゲシュタルト・テスト(Bender Gestalt Tet, Beder Visual Motor Gestalt Test)

ベンダー・ゲシュタルト・テスト(Bender Gestalt Tet, Beder Visual Motor Gestalt Test)は、ベンダー(Bender,L.)が1938年に考案した心理検査で、はがき大の9枚の幾何学図形を1枚の用紙に模写するという課題。

Lauretta Bender

Lauretta Bender(1897-1987)

用いられている図形は、ゲシュタルト心理学を作ったヴェルトハイマー(Weltheimer)によるものだ。ヴェルトハイマーは、人間が物を近くするときにゲシュタルト(全体をもったまとまりのある構造)として知覚する原理を研究した。「近接の要因」「閉合の要因」「よい連続の要因」といた「プレグナンツ(簡潔さ)の法則」を提唱している。

Lauretta Bender

ローレッタ・ベンダーは、モンタナ州のビュートという町に生まれた。学校での適応に問題があったようで、小学1年生を3回もしたとwikipediaに記載されていた。読み書きが困難で、逆さ文字などを書いていたため、知的障害があると考えられていたという。父親が彼女のディスレクシア(読字障害)の克服の手助けをし、後にアイオワ州立医科大学で医師となった。

ベンダーは、ジョン・ホプキンス病院でポール・シルダー(Paul Schilder)という精神分析家と出会い、恋に落ちた。シルダーは結婚していたが、後に離婚して、1936年にベンダーと再婚したとのこと。3人の子どもをもうけたが、シルダーは交通事故で亡くなってしまった。ベンダーは70才のときにHenry B. Parkesというニューヨーク大学の歴史学の教授と再婚した。

第二次世界大戦とベンダー・ゲシュタルト・テストの発展

ベンダー・ゲシュタルト・テストは、第二次世界大戦で数多く見られた戦争神経症や心因反応、器質的な疾患を短時間でスクリーニングするための心理検査として発展した。

兵士の適性を見るためのテストとしても用いられたという。

ベンダーは解釈の基準や採点方法などを残さなかったが、後にPascal Sattel法(成人対象)や、Koppiz法(児童対象)などが考案されている。

視覚的な認知能力や、視覚と運動の協応、構成能力などを見る神経心理学検査として用いられることが多いが、投映法的な見方をすることもある。

ベンダー・ゲシュタルト・テストにおける 日本人の標準値:文献的検討[pdf]

で日本人の標準値を知ることができるが、年齢や研究によって幅が広すぎるのがやや使いにくい。

 
Bender Gestalt Screening for Brain Dysfunction

この本の採点システムだと、「回転」や「単純化」「断片化」といった12項目のうち、全体で何項目該当するかということだけでスクリーニングできるが、日本人対象には標準化されていない。

中野光子『高次脳機能診断法』山王出版、2002年

では、点数化してしまうと質的な分析ができないという理由で、あえて数量化せずに解釈すると書かれていた。それもありだと思う。

Bender Visual-Motor Gestalt Test, Second Edition (Bender-Gestalt II)

現在、アメリカではベンダー・ゲシュタルト・テストの改訂版(BGTⅡ)が使用されているようだ。こちらは16の図形が含まれている。検索して調べてみると、透視立方体や主観的輪郭の図形が含まれていて、より難易度が上がっている。

しかし16枚だとさらに使いにくいような気もする。

 

精神科臨床における心理アセスメントの六つの視点

精神科臨床における心理アセスメントの六つの視点

津川(2009)が、精神科臨床の経験からまとめた、クライエントを理解するための心理アセスメントの六つの視点とポイント。

Ⅰ.トリアージ

A.自傷他害の程度

B.急性ストレス(悪化しているか)なのか慢性ストレスか

C.トラウマの有無(含むcomplex PTSD)

D.援助への動機や期待の程度

E.いま自分が提供できる援助リソース

Ⅱ.病態水準

A.病態水準と防衛規制

B.適応水準

C.水準の変化

D.知的水準と知的な特徴(とくに、動作性能力)

E.言語と感情のつながり具合

Ⅲ.疾患にまつわる要素

A.器質性障害・身体疾患の再検討

B.身体状況の再検討

C.薬物や環境因(大気など)による影響の可能性

D.精神障害概念の再検討

E.症状をどのように体験しているか

Ⅳ.パーソナリティ

A.パーソナリティ特徴(とくによい資質)

B.自己概念・他者認知を含む認知の特徴

C.ストレス・コーピング

D.内省力の程度

E.感情状態

Ⅴ.発達

A.平均的な発達

B.思春期や青年期の特徴をはじめとする年代ごとの心理的な悩み

C.年代に特有の症状の現れ方

D.発達障害傾向の生むとその程度(発達の偏り)

E.ライフ・プラン

Ⅵ.生活の実際

A.地域的な特徴

B.経済的な面

C.物理的な面(地理、家屋など)

D.生活リズム

E.家族関係を含む対人関係

津川律子『精神科臨床における心理アセスメント入門』金剛出版、2009年

上手な性格表現を正岡子規に学ぶ

心理テストの所見(レポート)を書いているときに、パーソナリティというか、人柄の描写で迷うことがある。

人物描写に関しては作家や芸術家が優れているので、いい表現を見つけたらメモしておくことにしている。

正岡子規の『仰臥漫録』という日記から、子規が妹の律について言い表した文章を紹介したい。病床にある正岡子規が、日々の食べたものや俳句、短歌などを書き付けたノートである。
仰臥漫録 (角川ソフィア文庫)

 

手元にあるのは岩波文庫のものだが、表紙がいいので角川ソフィア文庫のものを上に紹介する。

『坂の上の雲』の配役に従って、正岡子規は香川照之で、律は菅野美穂でイメージしたいところ。

律は理屈づめの女なり 同感同情のなき木石の如き女也 義務的に病人を介抱することはすれども同情的に病人を慰むることなし 病人の命ずることには何にてもすれども婉曲に諷したることなどは少しも分からず 例へば「団子が食ひたいな」と病人は連呼すれども彼はそれを聞きながら何とも感ぜぬなり 病人が食ひたいといへばもし同情のある者なら直ちに買ふて来て食はしむべし 律に限つてそんなことはかつてなし 故にもし食ひたいと思ふときは「団子買ふて来い」と直接に命令せざるべからす 直接に命令すれば彼は決してこの命令に違背することなかるべし その理屈つぽいこと言語道断なり 彼の同情なきは誰に対しても同じことなれどもただカナリヤに対してのみは真の同情あるが如し 彼はカナリヤの籠の前にならば一時間にても二時間にてもただ何もせずに眺めて居るなり しかし病人のそばには少しにても永く留まるを厭ふなり 時々同情といふことを説いて聞かすれども同情のない者に同情の分かるはずもなければ何の約にも立たず 不愉快なれどもあきらめるより他に致方もなきことなり

「理屈づめ」で「同情のなき木石」のような人柄で、婉曲な表現は伝わらない。カナリヤには興味関心が強く、何時間でも没頭している。こう書かれると、なんとなく特定のパーソナリティ像が浮かんでくる。

翌日の九月二一日には、子規は朝食に「ぬく飯三わん 佃煮 梅干し 牛乳一合ココア入 菓子パン 塩せんべい」を食べている。けっこうな食欲だ。

昼は「まぐろのさしみ 粥二わん なら漬 胡桃煮付 大根もみ 梨一つ」

おやつに「餅菓子一、二個 菓子パン 塩せんべい 渋茶」

夜ご飯には「きすの魚田二尾 ふきなます二椀 なら漬 さしみの残り 粥三椀 梨一つ 葡萄一房」

子規は、妹の律のことを「義務的に病人を介抱する」と評しているが、これだけの食事を用意しているのだから、単に義務だけとも思われない。

同じ日には律についてこうも書かれている。

律は強情なり 人間に向かつて冷淡なり 特に男に向かつてshyなり 彼は到底配偶者として世に立つ能はざるなり しかもその事が原因となりて彼は終に兄の看病人となりをはれり もし余が病後彼なかりせば余は今頃如何にしてあるべきか

この後は律がいかに献身的に子規の看病をしているかが描写される。

いくつかの俳句も記されている。

糸瓜さへ仏になるぞ後るるな

という句には、子規が病床の中で死を意識していることが表れている。

彼は癇癪持なり 強情なり 気が利かぬなり 人に物問ふことがきらひなり 指先の仕事は極めて不器用なり 一度きまつた事を改良することが出来ぬなり 彼の欠点は枚挙に遑あらず 余は時として彼を殺さんと思ふほどに腹立つことあり されどその実彼が精神的不具者であるだけ一層彼を可愛く思ふ情に堪へず 他日もし彼が独りで世に立たねばならぬときに彼の欠点が如何に彼を苦むるかを思ふために余はなるべく彼の癇癪性を改めさせんと常に心がけつつあり 彼は世を失ひしときに果たして世の訓戒を思ひ出すや否や

現代社会に生きていたとしたら、律はアスペルガーなどの発達障害だと診断されたかもしれない。そんな生きにくさを持った妹のことを、子規は口悪く、そして愛情深く描いている。

 

時計描画検査(CDT)で1分間認知機能スクリーニング

改定長谷川式簡易知能評価スケールには、意図してだろうが、動作性の検査が含まれていない。

視覚的認知機能や運動機能を評価したいと思ったら、何を使うといいだろうか?

時計描画検査(CDT:clock drawing test)が適切だと思う。

時計描画検査(CDT:clock drawing test)

時計描画検査は、アメリカの医学会でMMSEと並んで重視されている心理検査だ。認知機能のスクリーニングとして簡易に用いることができるので、おやと思ったらバウムテストの裏側などに描いてもらうことがある(いっしょに鈴木ビネーの「球探し」課題をしてもらうこともある)。 視空間機能やプランニング、数字や時間概念の認識(あるいは時間の見当識)、目と手の協応、前頭葉機能、実行機能などを評価することができる。

認知症や認知機能障害がある人(高次脳機能障害や統合失調症の人など)は、「時計が描けない」「何かが欠けている」といったことがはっきり表れることが多いので、認知面の重症度の探りを入れやすい検査だと思う。

時計描画テストと改訂長谷川式簡易知能評価スケールとの相関について

河野和彦『認知症の診断〈改訂版〉アルツハイマライゼーションと時計描画検査』という本が詳しい。認知症の診断 改訂版―アルツハイマライゼーションと時計描画検査 (認知症ハンドブック(1))

認知症初期の兆候(アルツハイマライゼーションと呼ばれているそうだ)を見逃さないために、時計描画検査を用いるための方法や工夫が詳しく記されている。

臨床家のための認知症スクリーニング―MMSE、時計描画検査、その他の実践的検査法

こちらの本は、もっていないけどぱらぱら読んだことがある。

実施法と採点

いくつものバリエーションがあるが、河野の方法は次の通り。

B5サイズの用紙を3枚と鉛筆を用意して、

A:真っ白な紙に「時計の絵を描いてください」と教示。

B:直径8センチの円が描かれた紙に、「数字だけを描いてください」と教示。

C:直径8センチの完成された文字盤の描かれた紙に、「10時10分の針を描いてください」と教示。

と3段階で検査を実施する。

描画検査の有用性と今後の展望について – 福山大学

Clock Drawing Test (CDT) の評価法に関する臨床的検討

リハビリ医療における認知機能スクリーニングについて -時計描画検査

には、いくつかの実施・採点方法が紹介されている。

バウムの裏などに描いてもらうときはA4の画用紙なので、いきなり「ここに時計の絵を描いてください。数字も全部書いて、針が10時10分を指しているようにしてください」と伝えることが多い。

上記の本には採点方法も紹介されているが、あまり厳密に数値化したりはしていない。

記憶課題と組み合わせたMini-Cog

「Mini-Cog」(Mini-Cog assessment instrument)という認知症のスクリーニング検査では、時計描画と言葉の記憶の遅延再生が組み合わされている。

被験者は、「桜、猫、電車」などの3つの言葉を聞いて、2度復唱して覚えることを求められる。

その後、時計を描いてもらい、続いて先ほどの3単語を再生してもらうという課題だ。

3単語のうち、1つも思い出すことができなければ、認知症の可能性が高いとされている。

また、2つくらいは思い出せても、時計描画がおかしければ、やはり認知症の可能性がある。
Mini-Cog™

統合失調症の認知障害を時計描画でアセスメントする

Clock Drawing Test in patients with schizophrenia.

統合失調症の認知障害を探るためにも用いられているとのこと。

 

 

「御侍史」と「御机下」の適切な使い方

いつも迷うので覚書として記す。

病院のお医者さん宛に紹介状や返信、あるいは心理検査のレポートなどを報告する際に、宛先に「○○先生 御机下」あるいは「○○先生 御侍史」と書くように教わり、ずっとその通りにしている。

でも、どう使い分けるのかといったことなどよく知らないこともあるので、これを機会に調べてみた次第。

読み方は、「御机下(おんきか、ごきか)」、「御侍史(おんじし、ごじし)」で、それぞれ意味は次のようになる。

御机下とは、「私のようなつまらないものが書いた手紙ですので、机の下に置かせていただきます。お時間あれば、ご覧いただけると幸いです」といったような意味合い。

御侍史は、「私のようなつまらない(以下同じ)ですので、従者の方にお渡しいたします」くらいの意味だ。

いずれも、医療業界くらいでしか使われていないんじゃないだろうか。

どう使い分けたらいいのかということだが、御机下は個人を尊敬する言葉なので、個人あてのときには御机下が正しいらしい。どなたが担当してくださるか分からないときなどは、「担当医先生御侍史」と書くとのこと。

お医者さんはどう思っているのだろう? 全国の医師300人にアンケート調査をしてみたら、51%が「違和感がある」、16%が「できれば止めてもらいたい」と思っているそうだ。

「御侍史/御待史」?何それ、どう読むの?

慇懃無礼すぎてかえって嫌だということのようだ。

ということなので、できればなくす方向にしたい。