精神医学

統合失調症におけるワーキングメモリ

ワーキングメモリーには、「この思考は誰かが私に言ったものか、それとも私自身が考えたものか」といった頭の中に存在する情報の出展に関するものも含まれる。

ということで、ワーキングメモリーの障害は、統合失調症に大きな問題を引き起こす認知機能障害の1つとされています。実行機能とも関係していると考えられています。

数唱は、健常者と比べてスパンが平均して1項目少なくなります。また、逆唱や語音整列などのより複雑な「ワーキング」要素が入ったスパン課題では、より重い障害が示されることが多いのです。

外部由来情報と自己生産情報の混乱は、統合失調症における幻覚と妄想の発言の理論のいくつかでは非常に重要なものである(Keefe, 2000)。自己の経験のモニタリング(すなわち自己認識過程)は、健常な認知機能において非常に重要である。これは、外部の出来事と内部の経験を区別し、その基本的なレベルでは位置や動作、身体の向きといった現在の身体についての要素のモニターを助ける。

聞いた情報と、頭に浮かんだ情報の区別がうまくできない、モニタリングできないということが、幻聴の原因のひとつと言えるのではないかとのことでした。

「うそをつくのが苦手」とか「まったく話題にしたことのないはなしを、あたかも前に話したかのように言及する」といった、統合失調症の患者さんによくあることも、同じ理由から説明できるのでしょう。
統合失調症の認知機能ハンドブック―生活機能の改善のために

統合失調症の認知機能改善療法

ティル・ワイクス,クレア・リーダー著/松井三枝監訳『統合失調症の認知機能改善療法』金剛出版、2011年

書店で見かけて少しめくってみたので、覚書として。

診断確立の時代,クレペリンやブロイラーらによって光を当てられた統合失調症の認知機能障害は,幻聴・妄想といった陽性症状への対処のなかで,「変化しない症状」としてながらく臨床的に省みられることがなかった。精神科医療が地域移行の時代をむかえ,当事者の主体的な生活のためのリハビリテーションが志向される中で,記憶・思考・注意といった認知機能の改善がにわかにクローズアップされてきた。日常生活や就労・就学において必要なのは,一人ひとり固有の希望を実現していくための応用力の改善である。認知機能改善療法(Cognitive Remediation Therapy : CRT)はメタ認知に注目し,個別状況をこえて生活スキルを改善する(スキルの転移)ための包括的なリハビリテーションプログラムであり,良好な治療関係の中で自己効力感と自尊心を回復する心理療法である。

とある。

実際にどんなことをするかというと、たとえば「前頭葉・実行機能プログラム(FEP)」などを行うようだ。

前頭葉・実行機能プログラム(FEP) ~認知機能改善のためのトレーニング実践セット~

前頭葉・実行機能プログラム(Frontal/Executive Program:FEP)とは、オーストラリアで開発された統合失調症の患者を対象とした認知機能改善療法(CRT)だそうだ。セラピストと患者がマンツーマンで1セッション1時間かけて、計44セッション行う。紙と鉛筆を使った課題や、手の運動、積木を色、形、大きさで分けるといったさまざまな課題が含まれていて、だんだん難易度が高くなっていくように設定されている。

統合失調症以外にも、発達障害、学習障害、ADHD、健忘症、認知症、物質関連障害、気分障害、衝動制御障害、脳外傷、脳卒中、脳腫瘍、てんかん、犯罪者など、幅広く適応できるだろうとのこと。

慢性期統合失調症患者に対する認知機能改善療法(CRT) : 前頭葉/実行機能プログラム(FEP)による実践的研究

によると、

FEP は認知的柔軟性(cognitive flexibility),ワーキングメモリ(working memory),計画(planning)という 3 つのモジュールで構成されており,課題内容はセッションが進むにつれて複雑さが増すように作成されている。各モジュールは眼球運動や知覚,情報の組織化,巧緻運動などから構成されている 。

とのことで、「 FEP が慢性期統合失調症患者の認知機能,社会機能および精神症状を改善することが示され,CRT の 1 つのツールとして有用であると考えられた。FEP は医療機関をはじめとして多くの施設において実施が容易なプログラムであると考えられる」という結論。