『精神病と統合失調症の新しい理解』

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英国心理学会・臨床心理学部門監修 A.クック編『精神病と統合失調症の新しい理解』国重浩一・バーナード紫訳、北大路書房、2016年

英国心理学会の臨床心理学部門による報告書。

原著はインターネットで全文ダウンロードして読むことができる。

Understanding Psychosis and Schizophrenia|The British Psychological Society

イギリスの臨床心理士という専門家集団による「提言」であり、従来の精神医学に異議申し立てをする政治的なアピールでもある。

そういう意味で、「報告書」であるのになかなか刺激的な本だった。

幻聴や妄想などの体験はこれまで統合失調症をはじめとする精神病と関連づけられ、投薬や入院による治療が中心に行われてきた。

ところが、心理学者たちの研究によると幻聴や妄想などの「異常な」体験は、実のところ多くの人が経験していて、同時に普通に生活も続けているということが明らかになってきた。

中井久夫先生に「世に潜む患者」というエッセイがある。病院に通院して精神病者として生きているのではない「患者」が世の中には大勢いるという内容だった。

阪神淡路大震災の時に避難所で会った人たちの中にも、「世に潜む患者」と言ってもいいような人が何人かいたのを記憶している。彼ら・彼女らは、災害によって「妄想」などの体験が周囲に知れることとなり、福祉や医療に「見つけられ」、治療対象として精神病院に入院することになった。災害がなければ、おそらくそのままひっそりと世界の片隅で暮らしていたのかもしれない。

本書の内容に戻ろう。

「はじめに」には次のように記されている。

これまで主に生物的な問題、すなわち疾患と考えられてきたものの心理的状態についての理解は、近年大幅に進歩した。その生物的な側面については実に多くのことが執筆されているが、本報告書は心理的かつ社会的な側面に焦点を当てることによって、これまでのアンバランスを是正することを目的としている。さらに、このような体験をどう理解するか、またそれが苦悩となるときにはどう支援したらよいのか、の両面についても述べることにする。

精神医学(と製薬会社)が生物学に偏りがちなのは事実だし、「精神病」の心理的・社会的側面にこれまであまり注目されてこなかったのも確かだろう。

この報告書は、もちろん英国の職能団体としてのポジショントークという意味も持っているのだけれど、それでも大きな価値を持っていると言えると思う。

以下、本書の「要旨」から抜粋。

声を聞いたり妄想を抱いたりすることは、しばしばトラウマや虐待、あるいははく奪などに対する反応として一般に体験されるものである。このような状態を精神障害や精神病、あるいは統合失調症の症状と呼ぶことは、1つの考え方でしかなく、それは利点と欠点を伴うものだ。

すべてではないにしても、大多数の人々にとって、声を聞いたり妄想を抱くことは一時的な体験に留まる。そのような体験をする人々でも、幸福で良好な人生を送ることが多いものである。

このような体験をする人々が暴力的になりがちだというのは俗説に過ぎない。

心理療法(話すことを基盤とした治療)は大多数の人々にとって大変役に立つものである。英国国立医療技術評価機構(NICE:National Institute for Health and Clinical Excellence)は、精神病または統合失調症の診断を受けた人すべてに、話すことを基盤としたセラピーが提供されるべきだとしている。しかし現在、多くの人々はそれを利用する機会がない。

さらに一般的にいえば、自分の体験の詳細を語り、自分に何が起こったの解釈する機会を、支援サービスが人々に提供することが不可欠となる。しかし驚くべきことに、実際にはほとんど行われていない。専門家は、人々が特定の解釈、たとえば、そのような体験は病気の症状である、というような理解様式を受け入れるように主張すべきではない。

支援サービスは根本的に変わる必要がある。さらに、虐待やはく奪、格差などを取り除く対策を立て、また予防する努力が必要とされている。

以上。

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